相手に伝えたいことがあるのに、うまく言葉にできない。
話そうとすると、気持ちが焦って空回りする。
説明すればするほど、むしろ伝わらなくなる。
何を話したかったのかわからなくなり、途中で話の迷子になってしまう――。
多くの人が抱える「伝えたいことが伝わらない」という悩み。
そのお悩みを改善するために必要なのは、話すテクニックより“静けさを意識すること” かもしれません。
私が“伝えること”の本質を深く考えるようになったのは、手話ニュースの制作に携わるようになったことがきっかけでした。
心で伝える姿勢を教えくれる手話ニュースの現場
20年以上番組を支えたキャスターの「静かな感謝」
3年前。
NHK Eテレ「こども手話ウイークリー」で20年以上キャスターを務めた河合祐三子さんが番組を卒業されました。
その最後の収録。河合さんは節目を静かにかみしめるように、あるメッセージを丁寧に表現なさっていました。
“原稿を書く人/映像を作る人/声をのせる人…みんなのおかげで続けることができました”
字幕や音声では「多くのスタッフ」とまとめられていた部分。
しかし手話では、ひとりひとりの役割を光の粒のように並べて表現していました。
表には出ないスタッフ全員への敬意が静かに宿っている。
その瞬間、胸の奥が、目が、じんと温かくなりました。
この時、私は「伝える」とは、言葉を並べることではなく、相手に敬意を向ける姿勢そのものということに気づいたのです。

言葉よりも“意図”が伝わるとき、人は動く
「見守る」は、“心の中で応援”という手話だった
「手話ニュース」や「子ども手話ウイークリー」に携わる中で、言葉が“意図”に翻訳される瞬間によく出会います。
たとえば「見守る」。
日本語では文字どおりですが、ある文脈では「心の中で応援」にという手話に翻訳されていました。
言葉の表面をなぞるのではなく、
言葉の奥に宿る“意図”や“想い”を見つけて、翻訳して、届ける。
これは、アナウンサーとして、母として、人として、大切にしていきたい「心でやりとりする」姿勢そのもの。
人の心は、言葉ではなく“意図”に動かされる。そのことを手話ニュースの現場で日々学んでいます。

伝えたいことが伝わらない本当の理由 — “相手視点”の欠如
手話という独立した言語が、コミュニケーションの基本を教えてくれた
富山テレビ報道部で記者をしていた頃、ろうのご夫婦を取材させていただいたことがあります。
30分のドキュメンタリー番組の制作を通して学んだのは、
手話は日本語の延長ではなく、ひとつの独立した言語であること。
そして、“見える言語なのに、見えない心の動きまで確かに伝わる”ということでした。
この体験は私に、“こちらが相手を知ろうとしなければ、何をどう伝えても届かない”という、伝えるうえで最も大切な当たり前を突きつけました。
相手の背景や文脈を知ること。
相手が受け取りやすい言葉を考える=相手の辞書を知ること。
これらは、目に見えなければ、言語化もされていない場合がほとんど。
だから相手に興味を持つ=相手を好きになることで それらをキャッチするのです。

日常にもたくさんの“みえないメッセージ”がある
行間に隠れた“意図”に気づく練習
私は昔から活字を丁寧に読むのが好きです。

”読むのが遅い”ってことだね
書き手が置いた「行間の意図」に気づく瞬間が好きなのです。見逃したくありません。
コミュニケーションにおいても
- みえているようで、実はみえていない
- きこえているようで、実はきこえていない
でも、たしかにそこに“あるもの” = “言葉でも手話でも表せないこと” があります。
そんな「静かな存在」に気づけるようになるために、心がけていることがあります。それは・・・
静けさに耳をすます
すると、不思議と未来からの小さなメッセージ—次の一歩を照らす灯りのようなインスピレーション—が届く瞬間があります。
これは、大勢のお客様の前でゲストをお迎えしてのトークショーでも同じことが起こります。
聴き手の皆さまの”静けさ”に耳をすましてみると・・・



今、何の話をきいていたんだっけ?



その話もっと詳しくききたいな〜
といった、心の声が聞こえてくるような気がするのです。


伝えたいことが伝わる人の共通点|静けさ=間
伝わる人は、話す前に一度“静まる”
伝えたいことが伝わらない人には、いくつかの共通点があるように思います。
- 焦って話す
- 相手の理解のスピードに気づけていない
- 情報を詰め込みすぎる
- 自分の正しさを守ろうとする
一方通行型の伝え方なのです。
反対に“伝わる人”は、双方向型の伝え方です。
双方向になるためには相手を感じる必要があります。
そこで大切なのが、話し始める前の、ほんの少しの 静けさ なのです。


アナウンサーの世界では、「大切なことを伝えるとき、“間(ま)”を仕込む」は基本中の基本。
静けさがあると、伝える側は、
- 思考が整う
- 相手の理解スピードが読める
- 過不足なく話せる
- 声が柔らかくなる
静けさがあると、相手は、
- 注意を向ける
- 聴く準備ができる
結果、言葉がすっと相手に届きます。
これは 「KIKU(聴く=傾聴・訊く=質問)」の視点でも同じことがいえます。
「伝える」は、話し手・きき手 両者の共同作業。
きき手の反応によって伝える内容も動かされていくのです。


伝えたいことが伝わらない人の共通点|相手をよく見ていない
手話は「見る言語」。
だから、相手を見なければ会話が成立しないのです。
これは会議でも日常会話でも同じなのではないでしょうか。
相手をよく見ないまま話すと、相手の
- 理解度
- 不安
- 興味
を、つかむことができません。
“どんなスピードで話すべきか”が読めないまま進んでしまう。
その結果、自ら「伝わらない」状況を作り出すのです。


呼吸のキャッチボールができる人は、必ず“伝わる人”になる
伝わる伝え方の極意
手話の世界にある、もうの一つ大切なことに気づきました。
それは“呼吸のキャッチボール”。
相手が息を吸うとき、こちらは自然とひと呼吸あけます。



あ、何か話そうとしている・・・って気づくからだね
これ、伝わる伝え方の極意だと思うのです。
迷う表情なら、ゆっくり言葉を差し出す。
理解が追いついていないようなら、整えて、あらためて丁寧に届ける。
呼吸が合うと、言葉の意味よりも「温度」が伝わりやすくなります。
言語化できないものが、振動として響きあう。
逆に呼吸が合っていないと、どんなに正しいことを言っても、どれだけ上手に言語化できていても、届かないのではないでしょうか・・・。





だから誰かと言い争いをすると息が苦しくなるのかも!
1人でも、大勢でも、伝わる伝え方の基本姿勢は同じ
1人の方と話す時は、
1対1の呼吸のキャッチボール をします。


3人の方と話す時は、
3人それぞれと1対1の呼吸 をやりとりします。
大勢の人の前で話す時も、実は同じです。
10人を前に話すなら
10人それぞれと1対1の呼吸のキャッチボールを。
100人を前に話すなら
100人それぞれと1対1の呼吸のキャッチボール。
100通りの呼吸のキャッチボールをするのです。


そう意識するだけで、
あなたの 非言語情報(表情・声・姿勢・間の取り方) が大きく変わります。
結果、きき手との“つながり”や“場の安心感”が全く違うものになるのです。
コエノオト的”メラビアンの法則”解釈
心理学者アルバート・メラビアンの研究によると、人が相手から受け取るコミュニケーションの印象は、次の割合で影響を受けると言われています。
視覚情報(表情・姿勢・しぐさ)……55%
聴覚情報(声のトーン・速さ・間)……38%
言語情報(話の内容)……7%
これは「好意・感情が合っているかどうか」を判断する場面での法則のようですが、“伝わり方において非言語要素が圧倒的に大きい”という意味では、コミュニケーションの本質にも通じています。
つまり、
✔ 話す内容よりも
✔ “どう在るか” “どう届けるか” の方が
相手に強く伝わる。
呼吸を合わせることは、まさにこの 非言語情報そのもの を整える行為です。
相手の呼吸を感じると、
・あなたの声は自然にやわらかくなる。
・間が整い、理解してもらいやすくなる。
・姿勢や視線が“相手を見ている”状態になる。
結果、その場の安心できる雰囲気・相手との信頼関係が育っていく。


だからこそ、
1人なら1人と。3人なら3人と。100人なら100人と。
相手の呼吸に寄り添う意識は、伝わり方を劇的に変えるのです。
伝わる伝え方3ステップ
この3ステップでコミュニケーションは劇的に変わります。


私が学んだ“静けさが導く伝え方”の原点
あの日の学びは、今もコエノオトの根っこにある
3年前、河合さんに写真撮影をお願いしたとき、その柔らかな笑顔に「心で伝える」姿勢のすべてが宿っていました。
手話の番組に携わるようになって6年。
“心で伝える”という学びは、今も コエノオト の中心にあります。
そして私は今日も、未来からの小さなメッセージを受け取れるように、相手の言語化できない想いを感じられるように、”静けさ”に耳をすます時間 を大切にしています。


まとめ|伝えたいことが伝わる人になるための3つの習慣
- 話す前に“静けさ”をつくる
- 相手の辞書(背景・文脈)を読む
- 相手の呼吸に合わせて“間”をつくる
「伝えたいことが伝わらない」という悩みの背景には、“何を話すか”ばかりに意識が向き、相手の呼吸や理解のスピードを意識できていないことが多くあります。
手話は“見る言語”。
相手の息づかいを感じ、迷いを読み取り、理解の速度に合わせる。
手話におけるコミュニケーションの基本姿勢をお手本に、伝え方を磨く具体的な実践は相手をよく見て、“間”を意識すること。
相手をちゃんと見て“間”をつくるだけで、伝わり方は驚くほどやわらかく、まっすぐになります。


伝えるとは、情報を押し出すことではなく、相手と同じリズムに整えて、受け取りやすい言葉を考えること。
その姿勢こそが、冒頭でお伝えした “心の静けさ” と呼応します。
静けさをつくり、相手を見る。
その積み重ねが、あなたの言葉を相手へ届くメッセージに変えていくのです。



最後まで読んでくださり、ありがとうございました!


